開発ストーリー

企業間での協力で社会に貢献する
「まるごと防災®︎」

2023-03-22

ひとつの企業やひとつの商材では解決できない「防災」という課題に⽴ち向かうには?室内の安全対策をトータルにサポートするパッケージ「まるごと防災®︎」が⽣まれたわけ。

Project Member

岸本 隆久

「防災」という課題意識を共有する
横のつながりに支えられて。

災害時の室内安全対策に役立つさまざまな商品を、複数企業から集めて提案する「まるごと防災®︎」。2017年度「防災製品大賞」において「防災安全協会賞」を受賞したこのパッケージ誕生のきっかけは、ある社員の領域横断的活動からでした。

岸本

私が防災というテーマに取り組むようになったのは、「プルシェルター®︎」というカーテン開発がきっかけです。もともと当社は防炎カーテン生地の業界トップシェアを持っていて、私はその営業を担当していたんです。ただ防炎カーテンは燃えにくいとはいえ、やはり火事になると燃えてしまいますし、そうなると逆にカーテンが炎の通り道になってしまうという弱点がありました。阪神・淡路大震災の時に、地震火災という二次災害が起きましたが、火事は普段でも起きます。そんな中で2011年の東日本大震災をきっかけに、私たちは防災用品の開発に力を入れるようになりました。その最初に開発した防災用品がカーテンの弱点を強みに変えて、「火事を消せるカーテン」の「プルシェルター®︎」です。

岸本

「プルシェルター®︎」はアラミドや難燃アクリル生地を使用し、普通のカーテンと遜色ない風合いがありながらも、万一のために生地を引っ張るだけで一気にレールから外せるカーテンフックがついているのが特長です。ですから、いざ火災が起きた時には、レールから外して消火に使ったり、避難時の防護衣に使うこともできます。

防災という名のつく商品第1号がこの「プルシェルター®︎」で、次に開発したのが担架にもなる毛布「もうたんか®」です。繊維の会社ですから、繊維で防災をしようと思って、普段から使われる毛布に目をつけたわけです。

岸本

ただ、2つの商品をつくってみて感じたのは、「商品単体の機能を伝えるだけでは、災害時にどんな状況が起こり、どんな対応が必要なのかという啓発にまでたどり着けない」ということでした。そんなことを思っていた矢先に、ちょうど防災研究会という集まりが開かれていることを知って、参加してみることにしました。それが2015年のことです。

その研究会には、全国のさまざまなメーカーや建設会社、研究者といった異業種の方々が参加していて、毎年5つぐらいのグループに分かれて研究を進め、年度末に論文を書いて発表するところまでやるんです。年に7回顔を合わせて集まる機会があるんですが、時にはみんなでお酒を飲みながら語り合うこともあり、「いろんな防災商品のパッケージをつくろう」というアイデアもそんな場で生まれました。話を聞いてみると、私と同じような悩みを、どこの会社でも抱えていたんですよね。

コロナ禍を経てさらに広がる
「まるごと防災®︎」のミッション

立場の違いを超えた仲間との対話から生まれたこのアイデアは、2017年に「まるごと防災®︎」というパッケージ商品となってデビュー。参画している企業も19社(2022年12月現在)に増えています。

岸本

デビューから5年経った今では、扱う品目もかなり増えました。またコロナ禍を経て、私たちが対象とする災害は「地震」「水害」「猛暑」「感染」という4領域に広がりました。ただ「室内の安全対策」という基本コンセプトは変わっていません。ということで「感染」においてはとくに避難所における感染対策に的を絞っています。

岸本

いま日本では、建物の構造物に対しては耐震・耐火などの基準が明確にできていますが、建物の中に関しては基本的に「住んでいる人任せ」なのが現状です。そういう意味では、今後「まるごと防災®」で取り扱う商品については、何か品質基準のようなものを設定する必要があるなというのは、ここ数年、ずっと思っていたんです。

「まるごと防災®」は、帝人フロンティアが販売窓口になっていますが、いま申し上げたような基準作りをやろうとすると一企業じゃ無理なんですね。そこで、より公共性を高めていくために、2021年に一般社団法人まるごと防災協議会という団体を設立したところです。設立には、防災の専門家や有識者の方々、そして日本防災士会にもご協力いただきました。

岸本

今後は、この協議会メンバーの皆さんと、室内安全対策の目安となる基準をつくったり、フォーラムやシンポジウムなどで、行政関係者や立法関係者の方にもご協力いただき、基準作りの基礎をつくるために、防災の啓発に関わる活動をやっていきたいと思っています。

「防災」が経営課題にもなる現代。
これからも社会のお役に立てることを。

ひとりの情熱で会社を動かし、さまざまなステークホルダーを巻き込んできたその歩みは、まさに「防災ひと筋」の10年と言えます。

岸本

今は、仕事と並行して防災士の活動もしています。防災士というのは、阪神・淡路大震災がきっかけでできた民間資格で、何か地域で災害が起きた時に、消防や警察、自衛隊が到着する前の自助や共助を率先してやるべき立場です。「ひょうご防災リーダー」という役割も仰せつかって、マンションの自治会や保育園などの防災セミナーに、講師として呼ばれて行ったりもしているんですよ。

こんなに防災一色の生活になるなんて、自分でも思ってもみなかったんですけどね(笑)。一社員としては、わがままだっただけのようにも思いますが、ある意味幸せな仕事人生ですよね。研究会や地域防災リーダーの活動を通じて、業界の垣根を超えた色々な横のつながりが増えたことは、本当に貴重だったと思っています。

岸本

「まるごと防災®︎」が世に出て5年。一般社団法人の立ち上げも叶って、ようやく防災の備えを広く訴えかけていけるフェーズに入ったなと感じています。やっぱり誰でも正常性バイアスが働くことがあって、「私の家はまあ大丈夫だろう」と楽観視して最悪のケースまでは考えないんですよね。そこは啓発活動も大事ですが、一方で「いかにも防災品」というのではなく、普通のインテリアとしても使いたいと思っていただけるような商品をラインアップしていくことも大切だと思っています。

近年、災害などの緊急事態に遭っても、企業活動を継続できるように各社で前もって計画を立てておくBCP(事業継続計画)の必要性も語られるようになりました。また、これからの防災は、普段使っている生活用品が災害時にも役に立つというコンセプトで開発することが大事です。そういう意味では、まだまだ「まるごと防災®」にできることは山積みです。定年までには、現在、所属している新事業開発室から独立した一事業部にまで育てたいなと思ってます。

災害大国日本、防災で必要な「自助・共助・公助」。その自助と共助をより進めていくためにも、「まるごと防災®︎」の役割はこれからますます広がりそうです。

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