開発ストーリー

汗との闘いに、新たな切り札
「トリプルドライ®カラット®」

2020-12-22

アウトドア・スポーツアパレルの吸汗速乾性の向上に挑み、業界のメジャープレイヤーに成長した「トリプルドライ®カラット®」。その躍進を支えた二人三脚の「チーム力」とは。

Project Member

尾形 暢亮

曽根勝 周平

汗をすばやく吸収して肌面ドライ。その秘密はポリエステル三層構造。

アウトドアやスポーツシーンにおいて、汗による不快感はパフォーマンスを低下させる要因です。汗をいかにすばやく処理して肌面をドライに保つか、という永遠の課題に挑むべく、「ポリエステル100%の生地構造で、肌側に撥水糸を配する」というテーマを掲げたのは、技術開発部の尾形暢亮。

尾形

ポリエステル商品の特長のひとつが吸汗速乾性にすぐれることですが、発汗時のべたつきや冷え感の解消という点において、今ある素材をさらにアップデートしたいという思いは、僕の中では2000年頃からすでにありました。そのために必要だったのが肌面の疎水層です。肌面に部分的に水を吸わない部分が存在することで、ドライ感が得られるという事実はすでに知られていて、ポリプロピレンの撥水糸を使ったものや撥水剤をプリントしたものが世に出回っていました。でもポリプロピレンはポリエステルとの相性がよくなくて、染色も困難であるなど、商品展開の応用度が低いんです。どうしてもポリエステル100%でやりたくて、撥水ポリエステル糸を、いろんな手法で作ろうとしたものの失敗続きで、数年はくすぶっていた感じです。

曽根勝

そのポリエステル撥水糸が完成したことで、色彩が多彩になり肌触りも向上したんですね。「トリプルドライ®カラット®」の発売が2015年頃で、その直後から僕も営業として関わるようになりました。当社の「アクアドライ®」や「トリプルドライ®」といった吸汗速乾素材の進化形ですね。肌面が凹凸状になっていて、肌に点接触する凸部分が撥水ポリエステル、凹部分が普通の吸水性ポリエステルです。これによって、吸水した水分は毛細管現象ですばやく発散され、肌への濡れ戻りがないんです。

尾形

一枚の生地に、水を吸うところと吸わないところを作るわけですから、そのバランスがむずかしい。生地が編み上がった段階では、まだ吸水性はなくて、染の後加工と同時に吸水加工をほどこすんですが、この吸水加工が撥水糸にまで及ばないようにしなければなりません。撥水糸の開発にも苦労しましたが、その他の編み構造や染め、後加工の技術が固まるまでも大変でした。でも、誰に命令されたわけでもなく、自分が作りたい一心だったというのが正直なところです。そういう開発者のチャレンジ精神を応援する自由な気風があるのが当社らしさでしょうね。

クライアント首脳陣の目の色が変わった。忘れられないプレゼン体験。

デビュー当初は、アウトドア・登山系ブランドからの引き合いが多かった「トリプルドライ®カラット®」ですが、その一方で、スポーツ分野への営業強化が課題として浮上していました。そんな矢先に飛び込んできたのが、アメリカの大手スポーツアパレルメーカーの首脳陣に直接プレゼンできるチャンス。

曽根勝

香港のホテルに呼ばれて、役員がずらっと居並ぶ前で、与えられた時間は30分だけ。めちゃくちゃ緊張したんですが、尾形さんと部長が説明をした後で、僕が「トリプルドライ®カラット®」の実物をお渡しして、水を垂らす実演をしたら、先方の反応が急変しました。水が瞬時に吸収されて、肌面を触ってもまったく濡れを感じない。そこで一気に会話が盛り上がって採用につながり、「One Way Transport(一方通行)」という名前までつけていただくことになりました。

尾形

そもそも我々のような素材メーカーが、クライアントに直接プレゼンをするケースは少ないと思いますが、僕は長年スポーツを担当してきて、そういう場を設ける事を自分から積極的にやってきました。お客様と話してこそ見えてくるニーズってあると思うので、開発マンも営業の場に出て自分の言葉で語り、お客様の生の声を聞くべきだと思っています。

曽根勝

僕が尾形さんを尊敬するのは、まさにそこのところです。当社の技術力やカスタマイズ力は、スポーツアパレルメーカー各社から非常に評価されているんですが、それも尾形さんがいるからこそ。スポーツのお客様は新素材のテクノロジーや蘊蓄を語って聞かせてほしいとお考えの方が多いので、海外のお客様からも「次のアポはノブ(尾形)も一緒に来てくれるか?」って指名が入るぐらいなんです。尾形さんが訪問するときは、先方も上層部が出て来られて中長期的な話ができるので、そのへんの影響力は営業マン以上にあるなと感じます。

尾形

開発も営業も、お互いチームとして信頼関係を築いていないと、うまくいかないですよね。営業が持っている顧客情報も、開発が持っている素材の知識も、できるだけ同じレベルで共有して、普段から一緒に行動してきたことが、功を奏したんだと思います。

曽根勝

尾形さんも僕もテニスが好きなので、仕事を離れてプライベートでも一緒にテニスをしたりするんです。スポーツのアイテムを扱っている以上、自分の肌感覚で性能を確かめることも大事ですから。そういえば、世界的に有名なテニス選手が「トリプルドライ®カラット®」のウエアを着てくれた時は、お互いに「やった!」と興奮しましたね。

さらっとドライな快適さをスポーツ以外の用途にも役立てるために。

世界的に有名な大手スポーツアパレルに採用されることで、信頼度や知名度が一気に上がった「トリプルドライ®カラット®」。今後は、スポーツだけでなく、さまざまな用途への応用が期待されています。

尾形

今後は、汗処理の機能をさらに上げていくことにも取り組んでいきたいし、それに加えて環境に配慮したものづくりの方法も模索しているところです。また、アスリートだけでなく、子どもからお年寄りまで汗はかくので、今後はスポーツ以外の用途にも役立てていきたいですね。

曽根勝

最近ではワイシャツメーカーさんが、「トリプルドライ®カラット®」の構造を取り入れた当社の織生地をビジネスシャツに採用してくださっています。日本の夏はジメジメして不快になりがちですから、いろんな業種のユニフォーム系インナーなどにも応用がききそうですね。

尾形

この「トリプルドライ®カラット®」という構造体と、当社が持っている他の素材や技術をかけ合わせることで、衣料品はもちろん、工業用資材などにも、もっと可能性は広がると思うんです。機能素材の宿命だと思いますが、「トリプルドライ®カラット®」が発売された後、多くの模倣品が出ました。それでも顧客様からは、「トリプルドライ®カラット®」のドライ性が断トツであるとの評価を得ていて、それが自信につながっています。日本のメーカーとして、この先もいかに本物を作り続けるか。それが自分に課せられたミッションだと思っています。

数年間かけて「ポリエステル撥水糸」の開発に挑み、さらにそれを独自の三層構造に落とし込むことから生まれたイノベーション。他の追随を許さないものづくりは、これからもさらに進化していくでしょう。

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