開発ストーリー

未知の可能性を秘めた
異型中空断面糸「オクタ®」

2023-03-22

今やアスリートやアウトドア愛好家にその名を知られるようになったハイテクポリエステル糸「オクタ®︎」。さまざまな技術との掛け合わせで、ラインアップを拡充中です。

Project Member

袋 忠之

廣瀬 翔一

8つの触手を広げる異型中空断面糸が
起こしたポリエステルの「革命」。

穴の空いた中空糸に、8本の突起を放射線状に配列したタコ足型断面を持つ特殊形状のポリエステル「オクタ®︎」。軽量で吸汗速乾性にすぐれ、スポーツやアウトドアの分野で注目を集めている「オクタ®︎」が、更なる挑戦で進化を続けています。

「オクタ®︎」が世に出たのは2011年。こういう異型断面の糸にすれば絶対に良いものができる、と当時の技術者が開発した原糸です。実は、私は最近まで10年ほどタイやインドネシアに駐在していたのですが、あちらの製造現場でもかなりの量の「オクタ®︎」が生産されていましたから、相当な人気なんだなと感じていました。

廣瀬

2015年に、ある海外有名スポーツブランドのウエアに採用いただいたことが大きかったですね。やはり有名ブランドの店頭に出て着用された方々より「これ良いね」と高く評価いただけると、毎シーズンブランドから採用いただいています。それ以降はスポーツ系だけでなく、アウトドア系ブランドからも多く引き合いをいただいています。

「オクタ®︎」が誕生した当初は、裏地としての用途が主でした。それが大きく変わったのは、2020年に「サーモフライ®︎」を開発してからです。「サーモフライ®︎」は、新たに開発した特殊な嵩高立毛構造のテキスタイルで、優れた汗処理機能を持つことや、「オクタ®︎」による高い保温性が特徴です。また、長繊維なので切断面から繊維が抜け落ちにくくなっている非起毛の「立毛素材」ですね。

廣瀬

「サーモフライ®︎」では、表・裏の外観や毛足の長さも多彩に変化をつけられるので、表現できる意匠の幅も広がりました。軽くて温かいので、重ね着が不要ですし、普通なら暑くなるとウエアを脱ぎたくなるところですが、「サーモフライ®︎」は脱がなくても蒸れを逃がして快適に過ごせます。とくにそこはアウトドア系ブランドから評価をいただいている点ですね。

こだわりの技術を駆使した
機能素材ゆえの苦労も。

2020年を境に大きく飛躍を遂げた「オクタ®︎」の名は、登山・キャンプ愛好家などエンドユーザーの間にも浸透してゆくことに。一方でさらなる技術革新を続けるためには、避けて通れない苦労もあります。

今後の応用が広がりそうなものとして「オクタ®︎ネオ」という素材があります。「オクタ®︎ネオ」は、12本の長繊維で構成している「オクタ®︎」を芯糸に配置して、その周りをポリエステルの紡績糸でくるんで、コットンのような風合いを持たせています。つまり、「オクタ®︎」の軽量性、嵩高性などの機能性に加え、紡績糸の肌ざわりの良い、やわらかな風合いを併せ持っているということです。

私たち2人は長繊維専門なので、短繊維のことは紡績工場の方々のほうがスペシャリストなので、こちらが学ばせてもらう部分も多いです。もうこれからはポリエステル専門だとか長繊維専門だなんて言っておられず、色々な知見を吸収しなければいけません。

廣瀬

「オクタ®︎ネオ」は特殊な紡績糸なので、どこででも製造できるわけではないんですよね。

そうなんです。「オクタ®︎」の原糸は海外で量産できるのですが、そこから先の、紡績糸をつくって巻きつけるという作業は国内の加工場でも難しく、先ほどお話しした「サーモフライ®︎」も、生地を編むのは難しくないですが、問題は編地を半裁しながら品位を管理していく事が、熟練工の手作業でないとできないんです。

廣瀬

悩ましい問題ではありますが、そのアナログさが、模倣されない秘密でもあったりするんですね。

松山の開発拠点と連携し、
糸そのものの進化、拡充にも挑む。

さまざまなハードルを乗り越えながら、あくなき挑戦と進化を続けてきた「オクタ®︎」。それを支えているのが、帝人フロンティアの持つ「研究開発力」です。

廣瀬

私たち営業がクライアントからニーズをヒアリングして、新しいタイプの糸が必要だとなったら、袋さんがその諸条件を原糸の研究開発拠点のある松山事務所の開発チームに伝えて、まずはサンプル糸をつくってもらいます。そのサンプル糸を袋さんが工場とやりとりしながらニットや織物にし、品質評価をしてOKならようやく量産体制に入れるという流れです。

糸の開発ってなかなか簡単にはいかないんです。でも、その分、新しくて良いものをつくれば皆さんに目を留めていただける。とくに最近はスポーツもアウトドアもファッションも垣根がなくなってきていて、スポーツやアウトドア分野で評価された機能素材が、街着でも使われることが多々あります。私たちの部署は、ニットに強い人も織物に強い人もいるので、こういった糸を皆で共有して新しいものをどんどん開発していこう、というスタンスですね。

廣瀬

今はアウトドアショップの店員さんにも「オクタ®︎」の名前が知られるようになりましたが、そんなふうに素材の名前が前面に出ること自体、なかなかないことだと思いますね。私はランニングをやっているのですが、店頭に「オクタ®︎」のアイテムが並んでいるのを見つけた時は、嬉しくてつい買ってしまいます。

これからは「オクタ®︎ネオ」や「サーモフライ®︎」のように、様々な知見と加工技術を複合、発展させれば、夢のあるものづくりができそうな兆しが見えてきたので、大変ではありますが、楽しみですね。

多彩な可能性を秘めた「オクタ®︎」。サイエンスと職人技を掛け合わせた日本にしかできないものづくりは、これからも世界を魅了していきそうです。

Other Story