医療現場の業務効率化に貢献する、
通過検知システム「レコファインダー®︎」。
医療現場の業務改善の中でも長らく盲点だった「手術にまつわる消耗品の管理」。その効率化を目指し、ゴミを捨てるという日常動作をソリューションに変えたプロジェクトの舞台裏とは。
Project Member
手術材料の管理タスクから
院内スタッフを解放するために。
病院で行う手術に欠かせない注射器や縫合糸、ガーゼ、カテーテルといった消耗品。それら手術材料の使用記録や保険算定は、院内の隠れた業務コストとなっていました。そんな現場の負担を軽減してくれるのが、通過検知システム「レコファインダー®︎」です。
当社の「スマートセンシング部」 は、2023年の4月に帝人から移管されてできた新しい部署です。「レコファインダー®」 が世に出たのは2019年ですが、社内での開発はすでに2014年頃から始まっていました。そのきっかけになったのが聖路加国際病院さんとの出会いです。帝人が展示会に出品していたRFID※システム 「レコピック®︎」をご覧になって、声をかけていただきました 。
- *RFID:ICタグ情報を非接触で自動認識する技術
「レコピック®︎」は、帝人が独自に開発したアンテナシートで、シート上の対象物に貼付したICタグ情報を読み取ることで、物の出入りを常時監視するシステムです。当時は、書類やファイルの履歴管理を目的としていましたが、 「このような自動読み取り機能は、書類以外の物品の管理にも活かせるのではないか」と考えられたんですね。院内の課題について一緒にディスカッションしながら開発を進めたい、というご意向を受けて、ヒアリングを進めていくうちに出てきたのが「手術材料の管理がアナログで行われていて手間がかかる上に、記録漏れや発注ミスも多い」ということでした。
それがきっかけで、帝人としても本格的にセンシング技術で医療現場に貢献しようということになり、私たちを含めたプロジェクトメンバーが召集されました。私はそれまで帝人ファーマで医薬品の営業をしていたので、新規事業の立ち上げなんて勝手のわからないことばかりでした。それに当時は子供も小さく、営業といっても出張にも行けない、と部長に相談したら「じゃあ君はビジネスモデルを考えてくれ」と言われまして(笑)。
私は技術系の人間ですが、それまでは機能フィルム加工の研究開発に携わっていて、RFIDシステムはまったく新しい世界でした。会社の中にも近いことをやっている人財はほとんどいませんでしたし、一から勉強することが多々あり、かなり大変でしたが、それは技術者としては面白い経験でしたね。
外装パッケージを捨てるゴミ箱を、
記録デバイスにするという発想。
手術材料の管理を「手間なく・漏れなく」行うためのソリューションとして、プロジェクトチームが目を留めたのは、手術材料の使用後に必ず行われる「外装パッケージを捨てる」という日常動作。ゴミ箱を記録デバイスにするという発想がここから生まれました。
「レコファインダー®︎」の現在の形に近いものができたのが2017年だったと思います。ゴミの投入口が滑り台のようになっていて、それが外装パッケージに貼付されたICタグを読み取ってデジタルデータとして記録してくれるんです。元になった「レコピック®︎」の技術は、ものが並んだ棚を常時監視して「何がいつ抜かれたか、何がいつ戻されたか」を管理するものですが、「レコファインダー®️」は通過する一瞬を捉えている点が大きな違いです。
この試作品にたどり着く前は、ゴミ箱の周囲にアンテナを配置して、箱に入ったものを監視する仕組みができないかと考えたこともありました。でもそれだと手術室にあるほかのもの、読まなくていいものまで検知してしまうんですね。そこで発想を転換し、投入口に接触する一瞬だけ読み取るようにしようと考えました。そうすれば箱に落ちた後のことは気にする必要がないので、使うのは市販のゴミ箱で大丈夫です。
ただ正確に読み取るためには、捨てる時に一つひとつ確実に投入口に接触させて、滑らせるように入れていただく必要があります。そこで、この試作版を導入いただく際には、当社のスタッフが病院現場に出向いて、看護師さんに使い方のレクチャーも行いました。やはり病院の現場は日々忙しく、ゴミはポイポイと投げ入れてしまう方が多いんです。
製品売りだけでなく、技術スタッフによる運用サポートも一緒にご提供したのが「レコファインダー®️」の特徴ですね。実験室ではうまく行っても、場所によって電波の状況が違い、必ずしも同じ結果になるとは限りませんから、ちゃんと現場に寄り添い、一緒になって業務の効率化を目指しました。
病院からしても、こういうDX(デジタルトランスフォーメーション)を導入するのはパワーがいることなんです。導入を主導する事務方の皆さんが、医師や看護師、情報システム課、購買課など、立場の違う方たちを説得しないといけない。そんな中、第三者である私たちがハブになることで、話し合いがスムーズに進むこともありました。
看護師さんは患者さん優先なので、これまで院内に定着していた運用や、慣れた動線を変えたくない気持ちが強いと思います。そう考えると、新しい技術で業務の効率化を進めるには、窓口になるご担当者のリーダーシップが、重要な鍵を握っているのかもしれません。
医療現場を支える
「医療DX」
2017年リリースの試作版を経て、ようやく2019年に製品版が完成した「レコファインダー®︎」。製品版完成前は、病院からの引き合いが思うようには集まらず、加えてコロナ禍の到来でプロジェクトの存続自体が危ぶまれたこともありました。しかし地道な努力が実を結び、今では医療分野のセンシング機器の主力製品に成長しています。
2020年に始まったコロナ禍では、病院はどこも大変な状況でしたので、訪問営業に伺うこともできず、展示会も見送られて、私たちも足踏み状態が続きました。ですが2022年ぐらいから少しずつお問い合わせが増えてきました。今、ICタグ読み取り機能を生かした医療系業務改善ツールの中では、「レコファインダー®︎」の知名度はナンバーワンではないかと自負しています。
コロナ禍はネガティブな面が多かったですが、一方で病院の働き方改革という新しい視点が生まれ、自動化やデータ化への関心が高まった面もあります。この3〜4年で「レコファインダー®︎」のラインアップも拡充して、今は院内だけでなく院外の物流につなげるフェーズに進んでいます。たとえば手術材料の院内在庫が少なくなると、自動的に卸業者に補充分を発注する仕組みのご提案です。
今後は、術式ごとの手術材料の準備リストとその使用時間、使用率の分析を実施することでより最適な材料の提案を進めていきたいと思っています。また、「レコファインダー®︎」を全国の病院へ普及させることで、現在問題になっている看護師さんの間接業務をタスクシフトさせ、医療業務に専念できる環境を作り出したいと考えています。
「レコファインダー®」を通じて、医療現場の負担を軽減することで患者さんの治療環境の向上に貢献できるとしたら何よりの喜びですね。
人の命を救う医療現場をセンシング技術で応援したい。そんな思いで病院関係者と対話を重ねてつくりあげた「レコファインダー®︎」。人に寄り添う姿勢を原点に、これからも進化を続けます。