機能性と風合いの両立を叶えた
新しいポリエステル「アスティ®︎」。
軽さや吸汗速乾性というポリエステル本来の機能性はそのままに、コットンのようなナチュラルな風合いも叶えた「アスティ®︎」。日本のきめ細かなものづくりが、その品質を支えています。
Project Member
「コットンライクなポリエステル」を
求める声に応えて。
軽さや吸汗速乾性などポリエステルの機能性は生かしつつ、コットンのようなナチュラルな風合いも欲しい、という声が、スポーツやファッションの分野で年々高まっています。2019年に誕生した「アスティ®︎」は、そんなニーズへの帝人フロンティアの一つの答えです。
「コットンのようなタッチや外観をポリエステルで表現できないか」という声は、とくにアウトドアやスポーツウェアの分野で、10年ほど前からすでにありました。ですから私たちも水面下でずっと研究は続けていました。ポリエステルにコットンを混紡するというのも、もちろんひとつの手ではあるのですが、やはり私たちはポリエステルの製造を手掛ける企業ですから、なんとかポリエステル100%でニーズに応えたいと考えていました。
コットンは柔らかくて肌ざわりがいい一方で、水分保持力が高く、嵩高性もあるため商品によっては肉厚になると重く、乾きにくくなったりします。
「アスティ®︎」は、特殊ムラ延伸加工にてピッチと太さにムラを持たせた糸を芯糸にし、その周りをハイマルチ(細単糸繊度)の仮撚り糸を組合せた複合糸です。これによって上質なコットン調の質感や外観に加え、着用快適機能を追求した新規素材の開発に至りました。この糸とさまざまな編み方を駆使して、インナーからアウター、薄手のものから厚手のものまでバリエーションに富んだ生地が作れるようになっています。その糸加工に関しては、グループ会社である帝人フロンティアニッティングの技術をベースに検討し、色々とディスカッションしながら作り込んでいます。
2019年に発表したところ、コットンライクな風合いがよく出ていると高い評価をいただいて、すぐに海外のアウトドアブランドに採用されました。「アスティ®」はスポーツ発信の素材ですが、スポーツやアウトドアだけに限らず、可能性のある新しい用途に向けて提案していきたいと思っています。私自身は学校体育衣料やユニフォーム向けの素材を販売する部署にいますのでこれらの用途での新規参入を狙いたいです。最近では思いがけないご縁があり、介護ウェア向けにご採用いただけました。これまでにないファッション感覚を取り入れた販売アパレル様のデザインに「アスティ®」の素材感がよく合いご好評いただき、準備していた在庫がすぐに売り切れてしまったそうです。
リサイクルポリエステル 100%で、
手間を厭わない丁寧なものづくりを。
「アスティ®︎」の強みは、石川県にある帝人フロンティアニッティングとの連携による、細部にまでこだわったものづくり。そこから生まれるのは、速さ・安さを競うものづくりとは一線を画す、日本ならではのクオリティです。また世界基準を見据えたサステイナブル性も、高い評価を得ています。
「アスティ®︎」を開発するうえで避けて通れなかったのは「100%リサイクルポリエステルで作る」という条件でした。日本では、まだ今のところ衣料メーカーのリサイクル素材使用率は30〜50%程度だと思いますが、海外展開を行う場合、リサイクルポリエステル100%でないと受け入れていただけないケースがほとんどであり、開発当初より最適なリサイクル原料の元糸を探すことも重要な項目になります。
編み上がった生地を染めることによって縮みが起き、糸にさらに太細のムラが生まれます。また芯糸とウーリー糸とでは染まり方が微妙に違うため、生地に杢調(もくちょう) の天然素材に似た外観が生まれるのもポイントです。
染色後の縮んだ状態でベストな風合いが出るように、計算して編む必要があるので、生機を作成する際にも手間を掛けています。ただ、 やはり簡単にできることをやっていては勝負にならないですから、私たちが持っている技術を生かして、いかに特長あるものを作れるか。それが何より重要だと思います。
「アスティ®︎」単体で生地を作るだけでなく、通常のポリエステルと組み合わせて使うこともできます。たとえば生地表面は通常のポリエステルで、裏面に「アスティ®︎」を用いてパイル構造を作ることで肌ざわりのよさを生かすことも可能となります。
変わりゆく社会に対して
ポリエステルができること。
ポリエステルのエキスパートとしての知見をフルに生かして、機能も質感もすぐれた素材を追求してきた帝人フロンティア。働き方の変化に伴い家事スタイルが変化したり、コットンの価格高騰という地政学的現象が起きたりする中で、ポリエステルが果たせる役割はまだまだたくさんあります。
「アスティ®︎」のメリットとしては、通常のポリエステルよりも吸汗速乾性が向上している点も挙げられます。これは芯糸と、それを取り巻くウーリー糸という二層構造がもたらすものです。また芯糸の太さ斑により生地の肌面にランダムな微細凹凸構造が発現するために、発汗時のベトツキ感を抑えられます。
共働き家庭が多くなった近年では 、夜に洗濯して部屋干ししたものが朝には乾いている、というのは大きなメリットです。以前は「子ども用の衣料はやはりコットンでなくては」という意識が根強かったと思いますが、最近はご家庭にもポリエステルの使い勝手のよさが浸透していることもあり、「アスティ®︎」がコットンに代替していくチャンスは十分あると思っています。また、スポーツウェア、アウトドア、ユニフォームだけでなく、機能素材をタウンユースする傾向にあるファッション用途など巾広い分野に広げていきたいです。
新しい素材というのは、発表してから市場に認知されるまでに4〜5年ぐらいはかかるというのが、これまで開発に関わってきた私の肌感です。「アスティ®︎」も徐々に認知度が上がってきており、これからも新しい商品や用途を開拓していきたいと思っています。
2021年頃からコットンの今までにない価格高騰という課題にも直面しています。どうしても天然のものなので、生産地が限定される上、収穫量がその年の天候に大きく左右され、出来高が少ないと供給量も減ってしまいます。そうなると同じものを同じ価格で提供し続けるのが難しくなります。そこでコットンに代わるものとして、安定供給でき、エコフレンドリー素材でもある「アスティ®︎」をおすすめしています。
「アスティ®︎」に新しい原料を加えてみたり、展開する繊度を変える事により、また違う方向性が生まれると思っています。これからも当社の既存技術に、新しい技術やアイデアを掛け合わせながら、当社にしかない素材を作っていきたいですね。
リサイクルポリエステルを使いながら、従来のポリエステルよりも向上した吸汗速乾性を持ち、コットンのような心地よい風合いも叶えた「アスティ®︎」。これからの衣類の「あたりまえ」を変えていく可能性を秘めたその品質は、今後ますます活躍の場を広げそうです。