資源循環でサステナブルな未来を目指す
「繊維to繊維」の社会実装への挑戦。

中古衣料品を再び元の繊維原料に戻す「繊維to繊維」リサイクル。多くの課題にぶつかりながらも、その社会実装に向けて挑み続ける若きメンバーの現在地とは。
Project Member

鈴木 優美子

河崎 敬太
大量の廃棄衣料の実態を知り、
リサイクル技術の開発で解決策を模索。
現在、家庭から毎年約70万トンの衣料品が手放され、そのうちリユースに回る分と産業用資材にリサイクルされる分を除いた、残りの約66%にあたる約46万トンが廃棄されています。アパレル事業者などの過剰生産分や売れ残りなど、まだ着用できるにも関わらず廃棄される衣料品も合わせるとその数量はさらに増えます。この大量廃棄の問題を少しでも解決するために、廃棄される衣料品を新たな繊維に生まれ変わらせて、繊維製品の資源循環を実現しようとする帝人フロンティアの挑戦を紹介します。

私のような技術畑の人間に求められているのは、リペアやリユースなどもできずに、ただ廃棄されてしまう衣料品を少しでも救えるようなリサイクル技術を開発することです。私は2024年の4月にこのプロジェクトに加わりましたが、すでに当社では2022年と2023年の2度にわたってポリエステルリサイクルの新技術を発表していました。ですから今の私の課題は、その技術を活かして、社会実装に必要な効率化や量産化を進めることです。
昨今の衣料品は単一素材で構成されているものは少なく、複数の素材を混ぜ合わせて、それぞれの素材の特性を活かした生地や製品にすることで多くの機能性を発現させています。また、ボタンや裏地、紐や芯地などの部材にも異素材が使われることが多いですね。そのため、ポリエステルといった素材別のリサイクル技術は、他社も含めて存在しているのですが、リサイクルできる対象品が限定されていることや、異素材を分離する技術がなかったことが「繊維to繊維」リサイクルの社会実装を難しくしている理由に挙げられます。たとえば、伸縮性のある着心地のよい衣料品の多くにポリウレタンが数%程度使用されていますが、この異素材であるポリウレタンを分離せずにリサイクルすると、品質の低い原料にしか再生できず、実用に適さなかったのです。そのような中、2023年に当社は、ポリエステル繊維とポリウレタン弾性繊維の分離技術の開発に成功し、この新技術は世界的にも非常に注目されました。

それに先立ち、2022年には当社の持つ従来のケミカルリサイクル技術よりも環境負荷の少ない「新BHET法」という技術を開発しました。前処理工程でポリウレタンなどの異素材を分離した後に、この「新BHET法」でリサイクルを行うというのが当社の新たなソリューションです。これにより、リサイクル工程で必要になるエネルギー消費量を抑えることができるとともに、ポリウレタン混の素材であっても、石油由来のものと同等品質のポリエステル原料に再生することができるようになったんです。さらに、他の素材も分離することができないか継続して研究開発を進めています。
このように、分離技術の確立によってリサイクルできる対象品が増えていくことになりますが、一方で、国内では廃棄衣料を回収してリサイクルに回す仕組みが整っていないという問題も浮上しています。そこで、不要な衣料品を効率的に回収できる仕組みづくりや、生活者の行動変容にアプローチする取り組みも進めています。河崎さんたちが担う技術革新と両輪をなす部分であり、どちらが欠けても「繊維to繊維」の社会実装は前に進まないと思っています。
理解と共感、協力を得て常識を変えていく。
技術面でのソリューション確立をめざすチームと、社会の仕組みにアプローチしていくチーム。車の両輪のように、双方が連携しながら前に進んできた。社会の常識を変えていくためには、繊維商社の枠にとらわれない活動も必要でした。
捨てるしかないと判断した衣料品でも、リペア(修理)して着用し続けようとしたり、他の人に有効に着用いただくためにリユースに回したりすることは、リサイクルよりも優先される環境に優しい策だと思います。ただ、それでも、いずれは捨てられてしまいます。捨てられるしかなかった衣料品はリサイクル技術によって繊維原料として生まれ変わらせることもできる。そのためには、どのようなことが必要で、どうしたらよいのか、一般生活者への理解浸透、行動変容を誘発するためのいろんな企画や啓発活動を行っています。たとえば、試合開始前のサッカースタジアムで、来場者の不要な衣料品を回収するイベントを開催し、資源循環の取り組みを紹介するブースも出展しました。ほかには、通信教育のベネッセコーポレーション様と共同で、小〜中学生に向けたアニメやゲームといったツールを使った環境学習コンテンツを制作しました。こちらが思う以上に、子どもたちが環境問題に興味を持ってくれて、打てば響くような感覚を得られたのはうれしかったですね。2022年からは、中古衣料品のリユースおよびリサイクル事業を展開するファイバーシーディーエム株式会社様との協働も始まっています。

ファイバーシーディーエム株式会社様が古着を回収して、リユースや有効活用できるものを選別し、残った古着の中からポリエステル系の衣料品をリサイクル用の原料として活用するという仕組みですね。そういった実証検証を重ねながら、私たち技術チームの方では、量産化、効率化を進めています。
業界の垣根を越え、あらたな仕組みづくりへの協働
不要となった衣料品の大半は燃えるゴミとして出されています。自治体によっては、資源回収や集団回収などで不要な衣料品を回収してリユース、リサイクルに回すこともあるのですが、地域を越境して移動させてはいけないなど、さまざまな規制もあり、燃えるゴミとして出された衣料品のほとんどがそのまま焼却処分されているのが現状です。そういった既存の仕組みや規制がリサイクル促進の障壁になっている面があることは否めません。そこで、アパレルや繊維メーカーなどが集まる業界団体のメンバーとなり、共同でファッションロス削減に取り組む活動にも力を入れています。社長や重役クラスの方々も多く参加されている業界団体の中で、私のように経験の浅い人間には分からないことだらけ。それでも周囲の方々に教わりながら、ワーキンググループのリーダーを務めさせていただくなど、貴重な経験を積ませていただいています。

グローバルに展開するアウトドアやスポーツアパレルを中心に、「何年までに何%をリサイクル素材に切り替える」と宣言する機運が高まっていて、社内外から様々な問い合わせが増えています。そういった作り手の意識変化に加えて、「自分たちがゴミとして捨ててしまっている衣料品を分別回収などに回せば、「繊維to繊維」のリサイクルによって再び資源として有効活用できるんだ」という認識が一般生活者の中にも広まっていくことを期待しています。
ものを作る側の責任として、
多様な資源循環を推進していく。
もちろん、このプロジェクトに参画する前も、環境保全や温暖化対策が大事だということは意識していましたが、当時はまだ情緒的でふわっとした理解にとどまっていたような気がします。今は「環境にいいこと」の解像度がぐんと高まりました。

サステナビリティは今、社内でも非常に重要視されている分野ですから、そこに技術革新で関われるのは非常にやりがいがあります。ポリエステル繊維を製造する技術を持つ当社の強みを活かしながら、「繊維to繊維」リサイクルの社会実装を早い段階で実現したいですね。
当社は、まだリサイクルへの意識が盛り上がっていなかった1995年に、使用済みペットボトルを原料としたリサイクルポリエステル繊維「エコペット」を、業界に先駆けて生産、販売開始した実績があります。目先の利益には直結しなくても、そういう先を見越した取り組みを行える土壌があるのが当社の強みだと思いますので、私たちも未来に向けて価値ある実績を積み上げていきたいです。
循環型社会の実現に欠かせない「繊維to繊維」の取り組みがこれからどんな展開を見せてくれるのか、ますます目が離せません。
