開発ストーリー

いざという時にも命を守る。
超軽量天井材「かるてん®」の挑戦。

地震時の天井落下から命を守るため、軽くやわらかい天井材を。従来の石膏ボードの約1/10という軽さを叶え、日本の建築業界の常識を塗り替えていく「かるてん®」の挑戦ストーリー。

Project Member

繊維資材第一部
東京キャンバス資材課

松本 英生

繊維資材第一部
東京キャンバス資材課

稲葉 信子

東日本大震災での教訓を胸に、軽くやわらかい天井材開発がスタート

2011年に日本を襲った東日本大震災。多くの建物が倒壊し、かけがえのない人命が奪われたこの災害で、改めて気づかされたのが「天井」の危険性でした。硬く重い素材が頭上にあることで、たとえ建物が倒壊しなくても天井が落ちて事故につながることもある、という教訓。私たちは、これまで盲点だった天井材に繊維の力を生かそうと、2012年に開発をスタートしました。

松本

「かるてん®」の開発は、当時の私の上司、つまり営業サイドの発案から始まっているんです。私が「かるてん®」に関わり始めたのは2014年のことで、ちょうど研究のフェーズが終わって、商品の作り込みが始まったタイミングでした。「かるてん®」は、それまでマットレスなどに使われていた反発性の強いタテ型不織布を、不燃素材のガラスクロスで覆いプレスしたものです。天井材として流通させるには、不燃認定を取ることが不可欠なため、この異素材づかいにたどり着いたのですが、天井材に必要な剛性や、断熱性、吸音性を両立させることがむずかしく、最適な製法にたどり着くまでに、開発チームはかなり苦労を重ねていました。

稲葉

「かるてん®」が発売にこぎつけた2015年の12月に「かるてん®推進チーム」が発足し、私もメンバーに加わることになりました。前年の2014年に建築基準法が改正され天井脱落対策の規制強化がなされたのも、「かるてん®」にとっては追い風でしたね。私はもともとエンジニアリング事業部にいて、帝人の保有する建物の保全や工事管理を担当していました。「かるてん®」は、これまでにない商品で、天井材だけの提案だけでは安全対策として不十分なため、下地材含め工法も開発して提案する必要がある、ということで、建築技術者である私にお声がかかったんです。チームに加わって、それまで経験したことがない、ものづくりのプロセスに接することができたのは、とても新鮮でした。

松本

本来なら燃えやすいポリエステル繊維を使うというのがまずユニーク。これまでポリエステルを芯材にした吸音材はありましたが、天井材としてポリエステルを使いながら不燃認定を取ったのは「かるてん®」が業界初です。従来の石膏ボードの約1/10という軽さで、カッター1本で加工できる手軽さや、型押しや型抜き、プリント加工で、デザイン性の高いオリジナルの天井材が作れる点も魅力です。

稲葉

防災面はもちろんですが、施工における省力化の面でも「軽さ」に対する業界の期待は大きいんです。今は建築現場も人手不足に加えて高齢化が進んでいますから。

二人三脚で日本全国を巡り、さまざまな現場で語らった経験が糧に。

2015年の発売開始以来、二人三脚で日本全国を回り、多くの設計者やゼネコン、施工関係者と語らい、さまざまな現場を観察してきた松本・稲葉コンビ。「かるてん®」の絶え間ないアップデートを支えているのは、まさにその経験です。

松本

「かるてん®」は、当社が自社で建材の最終製品まで作り込んで展開している珍しいケースですが、中でも、これだけ多くの設計事務所やゼネコン、建材メーカーなど、外部協力者とそれぞれの地域でがっちり手を組んでビジネスを行うというのは、ほかに例がないと思います。いろんな物件のご相談を受けますが、とにかくひとつとして同じ現場がなく、案件ごとにすべて条件が違うので、非常に大変ですがやりがいはあります。とくに稲葉さんはこれまで多くの施工現場を経験しているので、お客様と話しながら臨機応変に解決策を見つけていく発想力や提案力がとても頼りになりますね。

稲葉

そういった対話のおかげで、工法も進化しているんです。「かるてん®」発売当初は、TB工法といって、当社が社外の方々の協力を得て、下地材からオリジナルで開発したものが標準でした。その後、TB工法へのメリット・デメリットについてさまざまなご意見をいただいたのをもとに、新たに当社で開発したのがTL工法。これは施工が簡単で、以前よりコストダウンが可能になりました。そのほかにも、取引先様が独自に工夫して工法を開発してくださるケースもあって、今ではお客様の選択肢も増えています。技術者として、こうして材料と現場の橋渡しができるというのは、とても面白いです。

松本

最近は「かるてん®」を一度ご採用頂いたゼネコンや設計事務所から別の案件でも「かるてん®」を採用したいという話を頂くことも増えています

稲葉

建築業界は、新素材をどんどん積極的に採用するという体質ではありません。20年30年と長期間にわたって使用されるので、既存の実績のある材料を選ぶ傾向が強いと思います。そんな中で「かるてん®」のような新素材をわざわざ採用するのは、お客様にとっても思い切りがいること。いくらニュース性があっても、発売したからドンと火がつく、ということはまずないですね。ですから今は、丁寧に対話を重ねながら、これからの基盤となる業界内の信頼づくりを数年かけてしっかりやっていくんだ、という気持ちでいます。

日本の建物をもっと安全にするために。
これからも続いていく「かるてん®」の挑戦。

松本

2015年に発足した「かるてん®」推進チームは、すでに顔ぶれが変わって、そもそもの発案者であった私の上司や、生みの親である開発者もチームを離れました。今は私と稲葉さん、開発担当者2名を加えた4名でやっています。稲葉さんの言うように、「かるてん®」としてはまだまだ道半ばだと思っていますが、やはり人の命に関わることであり、必要とされている実感はひしひしと伝わってきますので、それは大きなモチベーションですね。

稲葉

私自身も建築に関わるひとりの技術者としての視点で見ると、「かるてん®」に対して、もっとこうなってほしい、という要望がたくさんあるので、それを一つ一つクリアしていきたいです。現場のニーズを開発者に伝えて、チームでともに試行錯誤しながら、よりよいものづくりに取り組んでいければと思っています。

松本

「かるてん®」は法律の対象となる大規模な天井を有する商業施設や空港、体育館などへの採用は広がっていますが、法律対象外のオフィスなどは、コスト優先で天井の安全対策はまだまだ進んでいません。「かるてん®」をもっと広めていくには、コストダウンの努力は必須でしょうね。

稲葉

「かるてん®」で得た技術や、外部とのつながりを生かして、これからは天井以外の用途提案にも拡げていきたいですね。日本の建物をもっと安全にするために、まだまだやれることがあると思います。

震災大国日本で、建物の安全を高めるために、繊維にできることを、ひとつずつ。「かるてん®」から広がる住環境イノベーションにこれからもご注目ください。

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